そらとぶ掃除機の旅人さん

眩しい日差しが照りつける中、乾燥した空気が自生する小麦に優しく吹き付けなびいています。そんな小麦色の一面の小麦畑の中で作業するケモミミの女の子、くりもとは2日後に納品予定の小麦粉を作るために必死で小麦の収穫を一人で行っていました。

誰か手伝ってくれる人がいればなぁ…などと思いながらも彼女は一つの小屋で一人暮らしをしています。

2日後に行商人のキャラバンがやってくるので、
それまでに予定量の小麦を収穫して家にひっついている水車を回し、粉砕して小麦粉に。
袋詰を行ってやっと1ヶ月の生活費と1ヶ月分の食料品を引き換えてもらえます。
今のところはなんとか予定通りに収穫ができあともうちょっとでお昼ごはんの時間です。

すると地平線の彼方から何かが飛んできているのが見えます。

「んー。空を飛んでいる魔法使いの旅人さんかな?」

くりもとは手を止め飛んでくる旅人を見つめます。

「すみませーん!ちょっとお手洗いをお借りしたいのですがー!」

飛んでくるのは掃除機に乗った女の子で手を降ってこっちにやってきます。

「いいですよー。よかったらお昼ごはんでも食べていきませんか-?」

お昼の12時

用を足した彼女がトイレから出てくる。
「すみません…トイレお借りしちゃって…」
「いいですよ。とりあえず座って」

小麦の収穫の間にずっとお鍋で煮込んでいたスープがもうそろそろできるころ。
グツグツ弱火で煮込んでいたスープはいい香りがします。
ライ麦のバゲットを適量に切って彼女の元へ持っていく。
「おまちどうさま」

温かい湯気が立つスープとパンのランチはお腹をすかせた彼女に満面の笑みが見えた。
「お昼ごはん!いいんですか?」
「長旅だったでしょ。好きなだけ食べていいよ」
「あ!ありがとうございます!」

彼女は無我夢中で昼食を頬張っている。
彼女がやってきた方角の隣町は軽く見てここから80kmぐらい離れている。
こんなに食いつきが止まらないのは飲み食いなしのノンストップでここまでやってきたのだろうか。

「随分食べてないみたいだけど、旅人始めたのは最近なのかな?」
「あ…バレちゃいましたか…旅人でこんな食糧不足なんて旅人失格ですよね…」
「私はここから3,4つぐらい隣のマルナってところからやってきました。」

マルナ…の街…発展途上国ではあるがスラム街で有名なエリア。
この家からでも200kmぐらい離れているところだ。

「じゃあ200kmぐらい、その掃除機で自分で飛んできたの?」
「ええ、あ、いや、最初はちゃんと資金も用意していたんですが…」
「宿屋に泊まってを繰り返して旅をしていたものの、だんだん資金が尽きてきて…
自分で言うのもなんですが、野宿の生活になり、餓死寸前ってぐらいの腹ペコに…
この掃除機は自分で改造して作ったものです。」

「すごいね。こんな長距離を…旅人経験は初めてなんでしょ?」

「はい…ちょっと実家で色々あって…家出ってやつですかね。」

と…話していると彼女は空になったお皿を持って私を見つめている。
「おかわり?」
「は!ご・・・ごめんなさい…」
頭から湯気が出て恥ずかしそうにしているのがわかる。

彼女の生い立ち①

彼女の分のおかわりをお皿に移して持っていってあげる。
「さ、どうぞ食べて食べて。」
「ありがとうございます!」

私の分はもう食べ終わったので皿洗いをしながら彼女の話を続けて聞いてみる。
「にしても掃除機に乗った魔法使いの女の子かぁ…すごいねそれ」
「私は魔法使いなんてそんな滅相なものにもなれないですよ…ただの旅人です。」

「私自身生まれつき体内の魔力もそんなに無く、魔法を使えるような体格になってないんですよ。私はどちらかといえば電子工学が得意で…魔法使いの宿屋のスタッフにならせるつもりだった親からは反感を買われ、ずっと嫌な目ばかり受けてきて…」

「実家は宿屋なんです。魔法を使ってあらゆる仕事をこなせって言われてたんです。私が住んでた街ではその家で生まれた子は親の家業を継がなければならないって暗黙の了解があり、みんな魔法が使えて親には気に入られて…」

「いつも親からはうちの子に限って…って言われるのが毎日のことでした。」
「うちの宿に泊まる人たちは旅人が大半を締めており、
みんな自由に旅する中で得た経験話を色々語ってくれて…
いつか私も旅に出たいと…」

「旅人かぁ…この世界では自由気ままに旅する人も多いよね。」

「ええ、多くが魔法のほうきなどに乗って旅を。
私みたいに生まれつき魔法が使えない人は車やバイクなどを調達して旅に出るのですが、
まだこんな年だしまともにお給料ももらえず家の手伝いって扱いだったので
無給与同然の状態でお金の調達もままなりませんでした。
そもそもバイクや車は貴族ぐらいしか乗れないようなステータス品ですし…」

「親には言ったの?旅人になりたいって?」

「何度も何度も訴えました…でも血相変えて。
しまいに刃物をチラつかせるぐらいにまで家業を継がせるつもりの親だったので。
何も抵抗できませんでした。何も言わずただ無機物のロボットのように」
「でも、宿泊する旅人さんたちはほんとみんな優しくて…
旅の途中で経験するお話やいろんな世界観、楽しい話から悲しい話まで色々聞かせてもらって。」

「みんないろんな世界を見てきているから旅人たちは優しいよね」

「そうなんです。旅人さんたちからも「キミも旅人になればいいじゃん」って言ってもらって…
ある時やってきた旅人は私の生い立ちを聞いてくれて
5万円ぐらいの金貨が入った袋を置いていってくれたんです。
「未来の旅人さんへ…諦めるべきじゃない」と。」

「それで資金は確保でき、旅に出ることに?」

「いえ、それからすぐ出発…
というわけには行かず一番の重荷がいくつか残っていたんです。」

  • 魔力がないからほうきを飛ばして旅に出れない
  • 車やバイクを調達するにもお金がかかる。(貴族が乗るようなレベル)
  • 親の監視下から抜け出さなければならない
  • もらった金貨が親にバレて没収されないように隠し場所を…

「この街から出るにも課題は山積みで…出発には1年ぐらいの歳月を要しました。」

彼女の生い立ち②

「車やバイクを乗るにも100万レベルでお金が必要。
そもそも運転免許を取得するにも隣町の免許センターまで行かなきゃならないし…
無免許で運転すれば旅の道中でIDチェックを受けることもあるので、
街に出入りなんかもできませんし…」

「なにか代行になりそうな乗り物はなかったの?」

「自転車とかも有りましたけど長距離走れるようなクロスバイクやロードバイクなってものじゃなく
周りにあるのは真っ赤に錆びたボロいママチャリぐらいしか有りませんでした。
なにか代わりになるものはないか…と考えながら
宿の食材品の買い出しに行かされていた時、ゴミ集積場にある掃除機を見つけたんです。」

「それが今この掃除機なの?」

「そうなんです。
私はあの掃除機がゴミ収集されてないことを祈って
1日の仕事を早く終わらせて真夜中に家を抜け出し、
その掃除機があった集積場へ向かいました。
この町ではまだ文化の発展も乏しく、
電子品などは日常で使われることは珍しいもので、
金持ちの貴族が正規輸入品で使っているというウワサを
聞いていたぐらいだったので…」

「他の国では電子機器が発展しているかもしれませんが、
私達の国ではレジスタが導入されて商店の人たちが驚くぐらいのレベルですから。」

「電子工作が得意って言ってたけど以前にも経験があったの?」

「ええ。度々この集積場で貴族が使っていたであろう電子家電の廃棄品を集めて色々工作したりしていたので…しかし、どれも使い物にならないほどの消耗状態でした。
でも今回は特別でこの掃除機は非常に状態がよくちゃんと稼働しそうなぐらいの
美品の状態で破棄されていたのでもうあのときはめちゃくちゃ嬉しくて…」

「でも掃除機だよね。
ゴミを吸うぐらいしかできないのに飛行するまでに改造…」

「はい。もうそれからは親が寝静まった深夜の時間に掃除機の分解や内部構造の
研究を初めて半年ぐらいかけてここまで改造することができました。
夜中にはちょっとダメな話ですが密輸入の行商人たちが街を出入りするので
うまくその人達と仲良くなって売れ残りの電子パーツなどをタダで提供してもらって…」

「その行商人たち、理解してくれたんだね。」

おやつのみかんを頬張り、彼女は話を続ける。
「ええ、その方たちも無法者とは言われても内心はとても心優しく、
私の家での境遇や旅に出たいという思いに理解してもらって、
こうやってパーツの提供や、掃除機の飛行可能にするまでの
アイデアも色々提供してもらっていました。
街を渡り歩く行商人でもあるので旅人の思いはうまく共有できていたと思います。」

「すごい優しい行商人さんだったんだね」

「いつか宿にやってきて5万円を置いていってくれた旅人さんやあのときの行商人さんなんかにも
旅の中で出会ってお礼を言いたいところです。おかげさまで旅人になることができました!って」

気づけば外はもう夕方

色々話し込んでいるともう当たりは夕方の景色から藍色の夜空に切り替わっている。
「もうこんな時間・・・私話しすぎちゃってたみたい…
そろそろ行かなきゃ。」

「よかったら泊まっていかない?
ここはよく旅人が来るのでお布団とかも来客用にあるので。」

「いいんですか!すみません…何から何までお世話になっちゃって…
お礼と言ってはなんですが、夜ご飯私が作っていいですか?宿で働いていたので
調理経験には自信もあるので」

「じゃあお言葉に甘えて今晩の料理は頼むね。
あ、あなたのお名前は?」

「私は森田紗鳥、さとりって呼んでください!」

「さとりちゃん!私はくりもと。よろしくね」

彼女は厨房と食材をお借りしますと一言言って晩御飯の調理に取り掛かり始めた。
私は彼女が今晩寝られるように布団の準備に取り掛かるのであった。

くりもとちゃん!「お風呂湧いたよ!」

と、リビングから声が聞こえてきた。
私は彼女が寝れるようにリビングにマットレスと布団セットを用意した後、
作業を放置してた小麦を屋内に回収したところだった。

家の煙突からは黙々と煙が湧き上がってる。
こういう人気のない場所で生活をしていると自分自身の一人称視点でしか
物事を見ることができないので、自分以外の人間がこうやって生活を動かしているのを観ると
不思議と心があたたまるような気がした。

ん?やはりこの声は玄関でさとりちゃんが手を降っている。
「お風呂まで沸かしてくれたなんて気が効くじゃない」
「わざわざご飯おごっていただいた上に泊まらせていただくんで
なにかお礼になることなら何でもしますよ!」
私が普段することは気がつけば何でもこなしてくれた。
さすが宿屋の娘ともあり働き屋だ。

だけどほんとに働きすぎにも見える彼女は
以前の宿屋での親元の生活は非常に苦労していたのではないだろうか
とも見て取ることができる。
いつ見ても穏やかな笑みでこちらに話しかけてくる限り、コミュニケーション力は非常に高く云えに
表上では苦痛な表情を見せてはいけないという束縛の元からさっきまで話してくれたことのように
内申ではとても抱え込んでいるものがあるのだろう。


当たりはもう満点の星空でオーロラがきれいになびいている。
窓辺からカーテンをめくって夜空を眺めているさとりちゃん。
「ほんと、キレイなんですね…この当たりの星空…」
「ええ、近くに民家なんて無いしここ当たり小川と地平線まで広がる小麦畑に私達のお家だけだからね。」
「そういえばなんですけど、栗本ちゃんはどうしてここで一人で暮らしてるんですか?」
「私かぁ…まぁね…色々あって記憶が思い出せないんだ…
気がついたらここに居て…私の家じゃないんだと思うんだけど周りを見ても私以外に誰も人が居なくて…」

くりもとちゃんの過去

「異世界転生ってやつですか!?」
「え?…どうだろう…ライトノベル的な展開ならそういう可能性もあるにはあるかもだけど…
もしそれがそうだとしたら以前の私は誰だったのか…
いや、元からこの家に住んでて何らかの原因で記憶を失い今ここにいるだけってのもあるかもしれないし…」

「いや!転生モノですよこれは!ずっとライトノベルだけは小さい頃から読んできたんですから!」
「随分小説好きなんだね…さとりちゃん…」
「私達の人生は可能性に秘めたストーリーがあるんですよ!
無限の可能性を秘めた一つの脚本…
運命に逆らうのも、従い続けるのも全ては自分自身が主人公!
この意志さえあれば誰だって暗い現実から抜け出して未来の自分を
見つけ出すことができるんですから!
きっとくりもとさんも以前の自分が見つかるはずですよ!」
「うん。そうかも知れないね…」

さとりちゃんはご自慢の手料理だという自信食をずっとキッチンで作りながら話しかけてくれてる。
私は取り込んだ小麦を粉砕機にかけて粉にする作業をしている。

「この家には大きな水車がついててね、その壁越しに
ここのキッチンの隅にある粉砕機につながってるんだ。
横には大きな麻袋があって途中まで小麦粉を袋詰されたような跡があって…
意識を取り戻した私が最初に見た光景がこれでね。」

「意識を取り戻した最初の光景がここのキッチンからだったんですか!」

「そうだよ。家のキッチンは水が出しっぱなしで、
テーブルのティーセットはまだ温かい紅茶が残ってるし。
リビングの暖炉は巻がくべられ真っ赤な炎が優しく揺らめいて。
普通に考えてみればこんな火を炊いたまま外出するなんて危険すぎることだしね。
どこかに住人はいるはずだって探して辺りをうろついてみたけど。
歩けば歩くほどこの家以外に周りには家の裏の小川と無限に広がる小麦畑以外
なにもないということに気がついて…
他にあるとすれば家から左右に伸びる石畳の道路があるけど
歩き続けてちゃこの家の場所を見失うことになるから、とりあえずは
現状を把握できるまでこの家を借りようって。」

すると手にミトンをつけたさとりちゃんはテーブルにカセットコンロを用意した状態で
お鍋のようなものを乗っけてガスを点火した。
「魔法は苦手ですが、こういった火をつけることぐらいなら
業務上よくやることなので可能な範囲です。」

点火したカセットコンロは魔法石が詰められたガスカセット缶を扱う。
それに利用者(さとりちゃん)のマナと共鳴して炎がつく仕組みらしい。
私がこんなカセットコンロが家にあることも気づかなかったが
彼女はキッチンの奥にありましたよと軽くウインクしながらこっちを見ている。

さ、できあがりですよぉ!

彼女が蓋を取ると一気に湯気が立ち込めた。
その中には美味しそうな牛肉がたくさん並んだものだ。

「私の祖国ではすきやきっていう食べ物なんです。
お金持ちの人が宿泊するときによくこの料理を提供する流れだったんで。」

とてもいい香りに思わずよだれが落ちそうになる。
「すごいね。今までさとりちゃんが宿で料理を振る舞ってたの?」
「ええ。15年間ずっと料理を…いや客室係などなんでも屋でしたけどね。」

美味しいご飯は彼女とともにいただくのだった。

甘辛く煮込まれた具材や野菜が鍋で踊る。
私がここで目覚めてからずっと食べてたのは小麦で作ったパンとスープの繰り返しだった。
今気づいたけど地下室に大型の業務用フリーザーがあったらしく彼女が底に眠ってた牛肉を
取ってきて調理してくれたとのことだった。

「どうやらここ結構な設備があるみたいですよ。
地下室には冷蔵庫…というよりもホント業務用フリーザーがドカッと置かれてた感じでしたし。
一人で住む一般住宅にしてはオーバーすぎるぐらいの設備があるみたいですし。」

「今度時間があったら自分でも確認してみなくちゃね。」

「で、くりもとちゃんはその後どうなったんですか?」

「私の話の続き?うーん。その後は目の前にあったパンを食べてただ毎日がすぎるだけ。
そのうちパンも底をつきそうだったので、この水車からの粉砕機を利用した小麦精製を行って
食材を作っていこうとね。」

「こなひきのくりもとちゃんだね!」

「そこまで専門家でもないけど…まぁそんな生活続けてたら
ある日でっかい馬車に沢山の荷物を載せた行商人たちがやってきてね。
くりもとさん、今月分の小麦をくれって言うから…」

「そこで初めて人とあっておしゃべりもしたと。名前もそのときにわかったんだね。」

「うん。最初は訳がわからなかったけど私はここで小麦粉を作って毎月訪れる
この行商人たちに小麦粉を提供してその分の礼金と1ヶ月分の
どっさりの量の食材を提供してくれるってね。
交換契約みたいなものかな?」

「そのときに色々話とかは聞いたの?」

「うん。聞けるだけ聞いた。相手も時間がないからって多くは喋ってくれなかったけど
もう何十年も前からここの家に繰り返しやってきて取引をしていると。
隣町なんかはないか?なんて聞けば相手は記憶喪失でもしたのか?
なんて変な顔しながら行商人御用達のエリアマップを見せてもらったよ。
左右に街はあるけどどちらも少なくても80kmぐらいは離れていると。
乗り物なしじゃ到底たどり着けないだろうな…ってね。」

「で、その行商人たち、そのまま行っちゃったと。」

「そう。そんな感じ。でもその後にも色々人との出会いはあったよ。
人とあっていくうちにここは主に旅人たちが必ず通ると言われる街道なんだって。
休憩ポイントもまともになくなにもない平野をただ歩いては山を超えての繰り返しのエリアだから
旅人さんたちはみんなここに来る頃には体力使い切ってへとへとになって。
みんなそんな状態で渡しの家に訪ねてくるの。

おトイレは有りませんか-とか、水をくださいだの、泊まらせてくれ!とかね。」

「いわゆる旅人たちのための”道の駅”ってやつですね。くりもとちゃん。」

「道の駅…かぁ。良いね。まぁみんなここで一晩明かしてついでに旅であったことや異国の話を
色々私に語ってくれて。お礼を言って次の街を目指して再び旅立つっていうね。」

「なるほど。私達はほんと旅に出て、色んな人と出会っていくってことだけが頭にありましたが、
逆に旅人と迎える側の立場でも多くの世界観を聞いて感じることができるんですね。
わたし、そっちの方も憧れちゃうな…」

「さとりちゃんは目的があるじゃない。自由の世界に羽ばたかせてくれた恩人に会ってお礼を言うんでしょ。」

「そ、そうだね。私は私でこうやって自由になれたんだから自分の体で現地に出向いて世界のすべてを知り尽くしたい。籠の中の鳥はもう抜けてここまでやってこれたんだし。私…もっと頑張らないとね。」

「そうだよ!その意気で旅続けなきゃ!」

なんて意気投合しながら暖炉の前のこたつに入って一緒にみかんを食べながら雑談を続けるのだった。

翌日

まぶたは閉じているのだが耳には物音が聞こえてくる。
下の階でガタガタと音が聞こえる。

体を起こすと窓からは明るい日差しが当たり、視界には2Fの私室が写っている。
昨日は何時まで話し尽くしたのだろうか…途中で眠りこけてさとりちゃんがここまで運んでくれたのかな…
うーん。自分で階段登ってベットに入った記憶もないし…悟りちゃんが私を抱えて2Fまで?

翌々考えてみれば女の子とはいえど体重はある程度ある中で持ち上げてここまで運ぶなんて
さとりちゃん結構力持ちなんだなぁ…と感心する。いや、とにかく下に降りてお礼を言わなきゃ。
ボサボサの髪を軽く整え、下に降りる。

「おはよう!くりもとちゃん!」
彼女を観ると作業着姿で朝から小麦の粉挽きを行っている。

「おはよう…ってか昨日のことだけど私を抱えて2Fまで担いでくれたの?」
「ええ、くりもとちゃん軽いから軽々だったよ!」
「さすが…前の職場ではほんと何でもこなせてたことがわかるよ…」
「昔は酔っ払ったおっさんなんかを客室に運ぶなんてことはザラでしたからね。
嫌がる仕事は親から全部押し付けられてました。」

「でもくりもとちゃん。もう納品予定の量は軽く+4000kgの小麦粉も擦れたから行商人から
ボーナスで給料ももらえるはずだよ!」
彼女の横の小麦が入った麻袋は一杯で棚に入り切らないほどの量を一人でやってのけたようだ。

「宿泊代の金貨は出せないけどこれでなら金貨に変換できるよね。
これで私の役目はやっと片付けられたよ」

チリンチリン…「ごめんくださーい。くりもとさーん。回収に参りました。」
若い男性のような声が玄関から。と反応を返そうとする間にも
玄関を見ればさとりちゃんは早から行商人と一緒になって麻袋に入った小麦粉の袋をどんどん運び出し、
馬車に積み上げていく。

うさみみの若い男性行商人は珍しそうに「おお、くりもとさん。
朝からこんな働きっぷりの新入り、バイトでも雇い始めたんですか?」と明るく語りかける。

「いえ、昨晩ここに泊めてあげただけなんですがその分のお礼がすごくて…」
「予定よりも多い出荷分の小麦じゃないですか。今回のお礼は弾みますよ!」
「そんなそんな…とんでもない…お礼ならこの子にも分けてあげてください。
ほぼ今回の量は彼女、さとりちゃんが朝から片付けてくれたみたいなので。」

「なるほど。働き屋の旅人さんか。」
ほらよっと言わんばかりに彼女に大量の金貨が入った袋を投げれば
彼女は軽々ジャンプしてキャッチする。

「ほほー。ナイスキャッチじゃないか。」
「えへへ…うーん。でもこれ私の給料…いいんですか?こんな大金もらっちゃって…」

「いいよ。私の生活費はちゃんと毎月の量よりもプラスα頂いてるし
今回の活躍はさとりちゃんのおかげだからね。」

「ありがとうございます!」とペコリとお辞儀をする彼女。
「さて、積み込みも終わったしこれにて失礼させていただきますね。来月また伺いますので。宜しく」
「お疲れさまでした!行商人さん。」

地平線の彼方まで続く道の先へ向かった馬車を見送りながら家の方へ振り返ると
さとりちゃんはもうすでに荷物をまとめて私の前に立っていた。

お別れの時間

「じゃあ。私はここまでです。
ホント色々お世話になりました。」

「もう行っちゃうんだね…なんか寂しくなっちゃう。」

「大丈夫ですよ。ちょっと待てば次の旅人さんがやってくるんでしょ!
そのためにも早く小麦の生産にかからなくちゃ!くりもとちゃん!」

「もう少し泊まっていけばいいのに。」

「いえ、お言葉に甘えたいですが、この先の天気が長い雨が来るって感じるんです。
業務系の魔法スキルの中でも天気予知の知識があったので、
今から出発すれば雨風しのげる森をたどるルートに間に合うんですよ。」

「そっか…じゃあ急がなきゃだね。ほんと色々楽しかったよ。
この先気をつけてね。」

「ええ。ありがとうございます。くりもとちゃん!
私この先も立派な旅人になって頑張っていきますから。
さようなら…」

掃除機の本体の上に乗っかり彼女が電源をいれればふわりと浮き上がった掃除機。
空高く舞い上がり「さようならー。くりもとちゃーん!」と手を降ってくれている。

「またいつか寄る機会があればいつでもおいで!待ってるよさとりちゃん!」

見えなくなるまで手を降ってあげた。
さてと…次の旅人さんが来るまでに小麦の生産準備にかからなくちゃ。
空になった麻袋を片付け、次の作業を始めるために準備にかかるのであった。

※今回登場したキャラクター

くりもとちゃん

気がついたらこの小麦畑と小川と水車のついた小屋の中で意識を取り戻したケモミミの女の子。過去の記憶は失っており、なんだかんだ生活しているうちにここにやってくる旅人さんたちの相手をしながら小麦粉を生産する仕事を続けていくことになった。

さとりちゃん

遠く離れた「マルナ」の街で宿屋の娘として育った少女。生まれつき魔力をフルに使いこなせない体格だが、電子工作が得意。めんどくさい家庭環境から抜け出すべく、街にあったゴミ集積場の廃棄品の掃除機を改造し、魔法使いの乗り物”ほうき”の代用品として開発した。その後、準備を整え一人で掃除機に乗って念願の「旅人」となり、空を飛び長旅をしてきたという。

次話へ続く…

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